丹羽宇一郎さんと「生き方の哲学」

今年も早いもので11月となり、朝夕の寒さがめっきり秋の気配を感じさせてくれる今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。全国旅行支援もはじまり、賑わいがみられるようになりましたが、また以前のような活況が戻りこれが続くことを祈念するばかりです。今回は、元伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎さんの書かれた「生き方の哲学」(朝日新書)から、ご紹介させていただきます。

丹羽宇一郎さんと「生き方の哲学」

丹羽宇一郎さんは、伊藤忠商事に入社後1998年社長に就任、翌年にバブル崩壊で膨らんでいた3950億円の不良資産を一括処理され、翌年の決算で同社史上の最高益(当時)を計上されるなどの実績をあげられます。2004年に会長に、2010年に相談役となられています。また、2010年には民間初の駐中国日本国特命全権大使に就任、尖閣諸島国有化をめぐって最悪の日中関係の中、日本と中国の関係正常化に向けて奔走されました。

「生きている限り悩みは尽きない。それでも、生きる姿勢が定まれば、人生はもっと楽しくなる。」

「苦しいときこそ、迷わず、まっすぐに生きる。誰かがきっと見ている。」

「毎日、いつでもどこでもベストを尽くせ。一歩踏み出せば、見える風景が違う。」など「生き方の哲学」には丹羽さんの人生を支えてきた言葉や考え方が記されていました。

以下、特に、印象にのこりましたところを引用、紹介させていただきます。

「奇跡」の共通点

「ニューヨークに駐在していたときです。穀物相場で、当時の会社の税引き後利益に匹敵する15億円に近い含み損を出したことがありました。私は30代、相場の勉強を重ねて経験も積み、自信がついてきたころでした。当然、クビを覚悟して辞表も書きました。自ら命を絶ちたくなることもありました。しかし、自分がいなくなれば、家族、会社の多くの人々に長年にわたる苦しみを残すことになるでしよう。独りで耐えて最大の努力を続けるしかありませんでした。

ところが、やがて状況が変化の兆しを見せ始めました。含み損が解消され始めたのです。奇跡だと思いました。このときばかりは、神の存在を感じないわけにはいきませんでした。

また社長時代、3950億円という業界最大規模の不良資産を一括処理した際のV宇回復のときもそうでした。一括処理して株価が下がり続ければ、会社は潰れるかもしれません。そうなれば、グループ何万人という社員とその家族が路頭に迷うことになります。口がパサパサに乾き、食べものがのどを通らない気がしました。 ところが、マーケットが開いたときに株価は暴落せずに、むしろ上がると同時に子会社の株まで上がったのです。私はうれし涙を禁じ得ませんでした。

「神様」と書きましたが、私は若いころから、神という存在を形のうえで信じたことはありません。いわば無宗教です。しかし、宗教の有無を超えて、人間の力を超えるものが世の中にはあり、それは私たちをずっと見守っている。そう信じなくては、私の心と頭は生きていけないのです。人間の力を超える何か、私はそれを「サムシング・グレート」(偉大なる何者か)と呼んできました。

前述した二つの「奇跡」には、いくつか共通点があります。

一つ日は、私は絶体絶命の危機にあった。

二つ日は、私は命がけの努力をしていました。目の前の巨大な壁を、ただひたすら乗り越えようと必死でした。

三つ日は、私には私心がまったくありませんでした。壁を乗り越えれば自分が評価されるのではないかとか、これで偉くなってやろうといった気持ちは、一片も持ちようがありませんでした。      四つ日は、私は独りでした。もちろん、励ましてくれた人はいましたが、何の力にもなりません。当たり前ですが、私は独りで考え、独りで、自分と闘ったのです。この孤独をきっと神様が見ている。だから最後まで耐えることができる。

と、うまくいけば、何とでも言えるのかもしれません。神様がどんなふうに私を見てくれていたかはわかりません。「こういうふうに見てほしい」と期待したこともありません。今だから脳天気なことが言えるのかもしれません。」

しかし、人生には、このように、人間の心と頭を超えるようなものに何か動かされているということがあるのではないでしょうか。

丹羽さんのような経験はなかなかできるものではありませんが、ピンチになってもあきらめない。利己的な考えを捨てて、一歩踏み出して、ベストを尽くしてみる。そして耐える。今年も終盤にさしかかってきましたが、来年にむけて、「サムシング・グレート」が味方をしてくれるような姿勢を少しでもみにつけられたらと思う今日この頃でした。

参考文献  「生き方の哲学」 (丹羽宇一郎 朝日新書)

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