長期の出張の境界線は…

今回は、顧問先からの質問を取り上げたいと思います。
質問をいただいたA社は、事業の全国展開をすすめており、また労務や旅費などの規程の整備中でもありました。
そんな状況での税務的な質問をご紹介いたします。

【質問内容】

A社は、新規エリアに新たな支店を開設するにあたり、本社勤務の社員を新規支店に勤務させる予定です。
会社の指示により遠方勤務となるので、社員が住まうマンスリーアパートの家賃は、社員の負担にならないように、全額を会社負担したいとのこと。

計画では、支店が軌道にのるまでの期間を3ヶ月と見込んでいますが、現地社員の採用状況によっては滞在期間が1年を超えることも考えられます。

【税法上の問題】

通常の出張費ならば、出張業務に関連する交通費、宿泊費などを会社が負担すれば経費です。当然、社員側で問題となる点もありません。

ですが、社員が住居する目的で使う住居の家賃を、会社が全額負担すれば会社側では経費となりますが、社員側では、現物の給与(経済的利益)を受けたと扱われ、その社員本人に所得税が課税され、税金を納める結果に変わってしまいます。

A社は、滞在期間が不確定であっても、この社員に与えた業務を長期出張として扱うので、アパートの家賃も出張費の範疇と言えますが、税法上では、家賃の金額分が従業員の経済的利益となる可能性をはらんでいます。これがこの事例の論点です。

【経済的利益って、いったいなんですか?】

論点を考える上で、所得税法にある『経済的利益』がポイントになるのですが、この『経済的利益』を簡単に説明すると「金銭の支給の有無には関係なく個人が得た利益」のことをさします。

税法上、社員旅行の費用も、個人が得た経済的利益として扱われるのですが、ある条件を満たした場合は非課税(税金の対象外)となるため、旅行に参加した社員が、この費用に対して税金を納める必要がなくなっている。
というのが税法のロジックです。では、何故、非課税扱いなのか?

国税庁は通達において、社員旅行の具体的な非課税の条件を明示していますが、『経済的利益』が非課税とされる原理には、「強制性」と「社会通念上相当と認められる」という要素が含まれています。

社員旅行は、会社が主導でおこなうもので、ある意味、業務命令的に社員は参加する側面があります。
これで「強制性」が成立します。
残る「社会通念上相当と認められる」は、世間の相場や、過去の判例などで、判断される部分になります。

【結論】

話を戻すと、A社が業務命令で長期出張をしていても、社会通念上の長期出張とされる期間を超えているのであれば、会社が負担する社員の家賃は、社員の『経済的利益』と扱われる可能性が高くなります。
ですが、税務上、長期出張の具体的な期間や状況は明文化されていませんので、この判断は事例ごとの状況により異なる、という言葉で締めさせていただきます。

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